金融庁が仮想通貨の金融商品取引法への移行を検討し始める
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- 2025.06.29.
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現在の日本の法律において、仮想通貨の現物取引やFX取引で生じた利益は総合課税の対象となってしまうことは、仮想通貨取引をされている方ならご存じでしょう。
この総合課税は、他の所得と合算した額に応じて税率が決まるため、もし利益が多額になれば税率は最大45%となり、住民税10%と合計すると最大55%にも達してしまいます。
一方、株式投資などで得た利益は雑所得とされ、他に収入があっても分離して税額を計算する申告分離課税の適用となり、税率は一律約20.315%となっています。
この税率の違いは大きく、仮想通貨取引をする個人にとってはネックとなっており、日本で仮想通貨取引が広がらない要因にもなっていました。
しかしここにきてやっと金融庁が重い腰を上げたようです。
仮想通貨をこれまでの資金決済法による規制から、金融商品取引法に規制移行するための審議を始めたとのニュースが入ってきました。
ただ現在はまだ議論を始めた段階であり、確実に規制移行するわけではなく、しかももし移行するとしてもすぐに実施されるわけではないでしょう。
仮想通貨FXや現物取引をしている方にとっては非常に気になる、このニュースについて詳しくご説明しましょう。
金融庁が「暗号資産を巡る制度」に関する資料を公表
2025年6月25日、金融庁が金融審議会総会の資料として「暗号資産を巡るあり方に関する検討について」を公表しました。
画像引用:金融庁金融審議会総会
この資料は、金融庁の金融審議会総会において、仮想通貨に対する規制を現在の資金決済法から株取引などに対する規制である金融商品取引法への移行を検討するためのものです。
「暗号資産を巡るあり方に関する検討について」の概略
金融庁が公開した資料「暗号資産を巡るあり方に関する検討について」には以下の内容が記述されています。
仮想通貨資産の取引状況
国内で仮想通貨の利用口座数が延べ1,214万口座にまで増えており、利用者預託金残高も約5兆円と大幅に増えていること。
仮想通貨の保有率
金融庁が2024年7月5日に調査した「リスク性金融商品販売に係る顧客意識調査結果」に基づいて、投資経験者のうち7.3%が仮想通貨を保有していることや、ネット系金融機関利用者に限定すると、10.2%が仮想通貨を保有していることが明示されています。
そしてこの保有率は株式などと比べると低いものの、円建社債やFXなどの保有率より高いことが明らかになっていると示されています。
機関投資家の仮想通貨への投資意欲
2024年6月に野村ホールディングスとLaser Digital Holdings AGによって実施された、国内機関投資家547名へのアンケートに加え、富裕層の投資動向に対する知見のある有識者へのインタビュー結果も引用しています。
そして調査対象者の半数以上にあたる62%が仮想通貨に対して分散投資の機会になると考えており、今後3年の間で仮想通貨に投資したいと考えているのが54%存在していることが明らかになったと記されています。
また海外の機関投資家の動向として、特に米国での動向を取り上げています。
米国ではビットコイン現物ETFの登場によって仮想通貨に投資する機関投資家が増えていることや、GOLDと同じようにインフレ耐性のある資産として仮想通貨に投資する動きが増えているとしています。
さらに年金基金や公的年金の管理委員会、投資銀行などもビットコイン現物ETFに投資していることも記述しています。
金融庁への仮想通貨に関する相談の実情
金融庁が設けている「金融サービス利用者相談室」には、仮想通貨投資の詐欺的な勧誘に関する相談があり、その件数は300件/月以上になることが記されています。
直近5年間の仮想通貨の価格推移
直近5年間のビットコイン、イーサリアムの価格推移に加え、日経平均株価、金先物、S&P500の価格推移を比較しやすいよう、ひとつにまとめたものを掲出しています。
金融庁が2025年4月10日に公表したディスカッション・ペーパーの概要
近年の仮想通貨取引の実態を考慮し、金融庁が仮想通貨規制に対する制度を検証した結果をディスカッション・ペーパーとして2025年4月10日に公表しており、その概要が記載されています。
画像引用:金融庁金融審議会総会
参考資料として
この資料の最後には参考資料として2025年6月13日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン実行計画2025年改訂版」の内容が記述されています。
画像引用:金融庁金融審議会総会
金融庁の資料の中で注目すべき点
今回公表された金融庁の資料「暗号資産を巡るあり方に関する検討について」の中で注目すべき点が幾つかあります。
1.投資家の保護
金融庁には仮想通貨での投資詐欺などについての相談が多いものの、現時点の資金決済法では十分な対応ができないため、これだけ仮想通貨に投資をする投資家が増えてくると無視することはできません。
仮想通貨取引が現在の資金決済法から金融商品取引法に移行すれば、それらを抑えることができるだけでなく、仮想通貨業界全体への信頼性も高まることが考えられることを示唆しています。
上記の審議資料内でも、仮想通貨には金商法の問題と似た点が多くあり、金商法の仕組みやエンフォースメントを活用すべきではないか記述されています。
2.ビットコイン現物ETFなどへの期待
資金決済法に規制されている仮想通貨は、米国で非常に活用されているETFにすることはできません。
しかし金商法の規制下に置けば、証券会社からのビットコインETF上場が可能になるだけでなく、幅広い投資家からの投資が可能になることを示唆する内容となっています。
3.税制が総合課税から分離課税に
現在の資金決済法に規制されている仮想通貨取引に関する利益は総合課税となっており、最大で55%と特に個人投資家にとって厳しいものです。
しかし金商法の規制下に置かれれば、株式などでの利益と同じように20%の分離課税になると考えられており、特に個人投資家にはありがたい変化だといえるでしょう。
制度検証から施行までの流れ予想
上記の仮想通貨に対する制度の検証については、2025年1月31日の衆議院本会議の席上、加藤勝信財務大臣が自民党の塩崎彰久議員からの質問に答える形で、2025年6月末までに検証を終えると答えています。
2025年6月末までに検証を終えたとすると、その後の流れとしては年内に報告書をまとめて税制改正大綱に反映。
来年の2026年、国会に法案として提出する流れになると考えられますが、この通りのタイミングで進捗したとしても、施行されるのは早くても2026年の10月以降になるのではないかと考えられます。
まとめ
現在の仮想通貨取引の利益に対する税率は、最大で55%と異様な税率になっています。
このような税率を設けているのは、もはや仮想通貨取引をすることはペナルティがあり、それでも取引をしたいなら高額な税率を受け入れなさいと言われているように感じてしまいます。
しかしここにきてやっと仮想通貨に用いられている技術や先進性、真価に注目したのでしょうか。
それとも米国で盛り上がっているビットコイン現物ETFに刺激されたのか、もしくはトランプ大統領の仮想通貨を支持する動きに追随しようとやっと重い腰を上げたのでしょうか。
どちらにしても、仮想通貨の利益が分離課税で計算されるのはもう少し先になりそうです。
それまでは大きな利益が出たとしても、申告漏れのないように注意しましょう。